相続放棄をしたとき保険金などを受け取って使ってもかまわないか-3

 前回からの続きで,今回が最終回になります。

 

(3)死亡保険金受取人を指定しなかった場合
 この場合に該当する事例はそんなに多くないと思われます。

 

 私が十数年前に関係していた生命保険会社では当時から死亡保険金受取人を法定相続人とする契約は取り扱っていませんでした。ましてや,死亡保険金受取人を指定しないという契約はありえません。他の生命保険会社での取扱いも同じようなものであろうと思います。

 

 その当時損害保険会社では,法定相続人として印刷された申込書が多かったような気がします。

 

ア 死亡保険金受取人の指定がない場合には契約を交わしている保険会社の約款の規定をみます。規定があればそれに従います。受取人は相続放棄とともに保険金を使用(処分)することができます

 

 例えば,死亡保険金受取人の指定が当初はなされていたが,その指定された受取人がすでに亡くなっていて受取人の変更届がなされていない。変更の届がなされる前に被保険者(この人が死亡・入院のときに保険金などの支払いがなされる)が死亡してしまったため保険金受取人が事実上指定されていないということが起こります。こうしたときには契約約款に従って処理されます。

 

 住友生命の約款(5年ごと利差配当付新終身保険普通保険約款 )によりますと指定されていた死亡保険金受取人の法定相続人が死亡保険金の受取人になると決められています。例えば父親の保険において長男を死亡保険金の受取人と当初定めてあったが,その後長男が亡くなって受取人変更がされないまま父がなくなったときには長男が死亡した時の長男の相続人,例えば長男の妻と長男の子(父からみれば孫)が死亡保険金受取人となります。

 

イ 約款等に規定がないときにはどう考えるかについての結論は出ていません。死亡保険金受取人がいないという状況にならないように受取人の指定・変更をおこなうという自衛策をとるしかありません。

 

ウ 保険金の受取人が「被保険者本人」となっていて実質的には受取人が指定されていないと同じときの取扱いにもイと同様に決着が付いていません

 

 相続財産として相続放棄した者を除いて現実に相続した法定相続人が継承するという見解をとる者が多いようなのですが,裁判例はないといいます。したがってこの見解に立てば,相続放棄をする者は保険会社から支払われるこの支払金を使う(処分する)ことはできません。

 

 この場合も「被保険者本人」というような紛らわしい指定をやめ,具体的な個人の名前で受取人を指定するようにするべきです。
 
4.入院給付金などの受取人
 入院給付金,リビング特約による保険金などは約款で被保険者とあらかじめ決められています。医療保険も死亡保険金を除く部分は同じ取扱いになります。

 

 先ほどの住友生命の約款では入院給付金,リビング特約などの受取人は被保険者であると約款で決められています。この約款に従いこれらの給付金は相続財産となりますので相続放棄を望む者は受け取ることはできません

 

 3回にわたって相続放棄したときに保険会社からの支払金を使って(処分して)かまわないかを検討してみました。固有の財産であることがはっきりしている場合を除いてははっきりするまでは手をつけないのが賢明です。それは保険会社からの支払金についてだけではなく,本人が亡くなったことにともなって支給されるすべての財産についても同じことが言えます。

 

 君子危うきに近寄らずです。そうでないとせっかく本人が残した借金から逃れようとして相続放棄を申し立てた意味がなくなってしまいます。くれぐれもお気をつけください。

 

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