やなせたかしさんの雑紙上の「遺言」と民法上の「遺言」

 漫画家のやなせたかしさんが遺作となった雑紙の中に「遺言」とも取れる文を乗せていたと話題になっています。死期を覚悟した文をつづっているというのです。

 

 法律でいう「遺言」と日常用語でいう「遺言」の違いについて少し考えてみました。

 

(1)死後のために残す手紙や文章


 死後のために残す手紙や文章として,いろいろな言葉があります。「遺書(いしょ)」「遺言(ゆいごん)」「遺訓(いくん)」「置文(おきぶみ)」「書き置き(かきおき)」などが浮かびます。
 最近は,あまり「遺書」という語は使われず,「遺言」という語が好んで使われるような気がします。「遺書と」いう語は自殺を連想させるからなのでしょうか。

 

(2)法律でいう「遺言」には「死に臨んで残す」という意味は含まない。


 上に例示したいずれの語も死の間際に残すものという意味を含んでいるように思われます。しかし,民法でいう「遺言」という語には死に臨んでという意味は一切含まれていません。20歳代の人が抱えた事情により法律でいう「遺言」を残した例もあります。「お元気で頭がしっかりしているうちに遺言書を書いておきましょう」とお勧めすると「まだ,そんな歳ではない」という反応をされる方がいます。ふだん使っている死に際に残す「遺言」の意味と,法律でいう「遺言」の意味を混同しているからではないでしょうか。

 

(3)法律でいう「遺言」は残された者を強制する。


 法律でいう「遺言」は遺言者の指示に後に残された者はしたがわなければなりません。国家権力が遺言の内容の実現を保証します。しかし,それ以外の死後のために残す手紙や文書は,その内容を残された者に強制することはできません。こうして欲しいという希望を述べているに過ぎませんので,後に残された者はその意思を無視することも尊重することも自由です。

 

(4)法律でいう「遺言」は法律で定められた形式にしたがう必要がある。


 法律でいう「遺言」は死後に残された者を支配する強力な制度です。そのため,遺言書の形式は厳密に定められ,その形式を満たさないものは法律でいう「遺言」とは認められません。

 

(5)法律でいう「遺言」は遺言事項のみを強制できる。


 また,法律でいう「遺言」はその指示できる事柄(遺言事項)も法律で決められています。決められた事柄以外の遺言の内容は残された者を拘束することはありません。希望事項でしかありません。法律で定められた遺言事項以外の希望事項を付言事項ということもあります。

 

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