池井戸潤『かばん屋の相続』を読みました。

 池井戸潤さんは,「倍返し」で話題をさらったテレビドラマ『半沢直樹』の原作『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』の著作者です。彼の作品を読むのは,江戸川乱歩賞受賞作『果つる底なき』(1998年)を読んで以来です。

 

 『かばん屋の相続』は読みたいと思いながら機会がないままになっていました。昨日(平成25年12月28日)読んでみました。相続をめぐる兄弟の財産争いという単純なストーリーだけではない趣を持った内容になっていて,最後まで一気に読み終えました。

 

 物語から離れて作品に登場する遺言や相続の法律的な点について少し見たいと思います。


(1)父親が残した遺言状の法律的な効力
 ワープロで書かれた文面に父親が自分で署名をしています。弁護士が病床で遺言の内容を聞き取って,それを書類にして内容を確認の上,署名した遺言状が残されていました。

 

 遺言は法律に定められた方式に従わない場合は効力がありません。普通の方式は自筆証書,公正証書または秘密証書によらなければなりません。この物語の方式はこのどれにも当てはまりません。一番近いのが秘密証書による方式ですが,公証人と証人二人が必要です。また署名時に正常な判断能力があったかも問題になります。

 

 特別の方式として死亡が迫った人が遺言をするときには,三人の証人が立会のうえ口頭で遺言をすることができます。その後20日以内に家庭裁判所で確認をしてもらう必要があります。

 

 物語には,秘密証書による遺言・特別方式の危急時の遺言であると思わせる話は出てきていませんので,法律で決めた遺言の方式に従った遺言ではないということになります。したがって,父親が残した遺言状は遺言としての法律的な効果はないといえます。

 

(2)相続放棄,生前贈与が物語の伏線として張られています。
 ミステリー仕立ての物語ですので,これ以上説明するとネタバレになってしまいます。相続放棄,生前贈与の展開については作品をお読みになってお楽しみください。

 

(3)物語ではふれられていませんでしたが,生前贈与が詐害行為に当たらないのか気になるところです。

 

 『半沢直樹』もよいのですが,人情がにじみ出る『かばん屋の相続』を正月の読書目録に加えてみてはいかがでしょうか。

 

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