「とりあえず遺言」または「さしあたり遺言」

 「さしあたり遺言」という言葉が目にとまりました。「とりあえず遺言」ともいうらしい。

 

 その意味は,公正証書遺言をおこなう前に,さしあたって(とりあえず),自筆証書遺言をつくっておきましょうという趣旨のようです。

 

 なぜそんなことをする必要があるのかといいますと,公正証書によって遺言をおこなうには公証人の都合だとか,公証人との下打ち合わせだとか,かなりの日数が必要になります。

 

 しかし,死期が迫っているなど,公正証書をつくるまで生きていられるかどうかわからないというような切迫した事情にあることも考えられます。そこで,少々安定性が欠けるかもしれませんが,自筆による遺言書をさしあたって書いておこうという算段です。

 

 運良く生き延びられれば,そのときには安定性がある公正証書遺言を残せるわけです。

 

 また,場面は違いますが若いときには相続財産,相続人が時間の経過とともに大きく変動する可能性があります。とりあえず自筆で遺言書をつくり,人生の節目節目で自筆証書遺言を書き改めます。そして,ある程度将来が見通せる年齢になって公正証書遺言を残すと言うことも考えられます。遺言はその形式に変わらず,以前に書いた遺言と内容が矛盾する場合は後刻に書いた遺言書が優先します。

 

 どなたが最初に名付けたのかわかりませんが,うまいことを言うものだなと関心をいたしました。

 

 人生何があるかわからないのですから「とりあえず遺言」は,遺言があれば相続時のトラブルが防げるのであれば,公正証書による遺言ができるまでの時間の隙間を埋める一助になるでしょう。

 

 ただし,一つ気を付けなければいけないことがあります。それは,遺言をする人が遺言書の全文を自分で書かなければいけません。それができるだけの体力と気力がある人のみに有効な方法だということになります。遺言書を書くときには,本人の頭がしっかりしていることが必要なのはいうまでもありません。

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