認知症の母がいるときの父の遺産分割(後見人等がいない場合)

前回,「認知症の母がいるときの父の遺産分割(後見人等がいる場合)」について検討してみましたが,今回は母親に後見人等がついていない場合について検討してみたいと思います。

とくに,後見人等を定めない場合のことをすこし詳しく見たいと思います。

 

1.後見人の審判の家庭裁判所申立て

 

前回にみたとおり,意思能力に疑問があり,行為能力が不十分な人は遺産分割協議に本人は参加することができません。本人(母親)の代わりに成年後見人,成年後見監督人,あるいは特別代理人が遺産分割協議をおこなうことになります。

 

後見人等がいない場合には,まず後見人等を決める必要があります。

 

家庭裁判所に4親等内の親族が法定後見の申立をおこない,家庭裁判所が決定した人が成年後見人となります。その成年後見人が本人に代わって遺産分割協議をおこないます。成年後見人に選任された人が遺産分割において本人と利害関係が反しているときには,成年後見監督人が指定されているときには,その成年後見監督にが成年後見人に替わって遺産分割協議に参加します。また,成年後見監督人がいないときには成年後見人が特別代理人の選任を家庭裁判所にお願いをします。その選任された特別代理人が成年後見人の代わりに本人のために遺産分割協議に参加します。

 

以上が前回のまとめです。

 

2.後見人選任の問題点

 

遺産分割協議を滞りなく処理するためには,後見人を家庭裁判所に選任してもらうのがよいのはいうまでもありません。しかし,問題もあります。

遺産分割協議が終了して,成年後見はもう必要がないので止めたいと考えても,止めることはできません。成年後見は本人が死亡するまで続きます。

 

これは,いろいろと不都合がでてくることがあります。

 

特に後見人として第三者の専門家が選任された場合には,その人への報酬支払いが本人が亡くなるまで続くことになります。また,家族が後見人を続けるとしても裁判所への報告などかなりの負担になります。

 

3.法定後見の申立てをしない場合

 

後見人等の選任による不都合を避けるために,法定後見をしないということも選択肢として考えられます。その場合の逆の不都合は,遺産分割協議ができないと言うことですね。

 

相続が発生したご家庭の状況にもよります。成年後見人がいないときには,法定後見の申立てしかないと言うことではありません。

 

①預金などの金融資産はほとんどなくなく,なった父親(母からみると夫)の財産は自宅の土地と建物だけというようなときに,急いで遺産分割をする必要は普通にはないように思われます。

②母親を子どもが引き取り,その自宅を売却しなければならないときに,遺産分割協議ができないことが障害になるでしょうか。

 

4.遺産分割協議なしでの不動産売却

 

前記②のように遺産分割協議がなされない状態で,自宅の土地建物の売却は可能でしょうか。

以下のように点順を踏めば可能だと思われます。

 

①自宅の土地建物の「共同相続登記」をおこないます。

 

共同相続登記は保存行為扱いとなっています。そのため,相続人のうちの一人が単独で法定相続人全員の法定相続持分を登記することが可能です。ほかの相続人の同意もいりません。認知症の母親の同意も印鑑も不要です。

 

②子どもたちは自分の持分について売却をします

 

認知症の母親は意思能力,行為能力に疑問がありますので,売買契約を結ぶことはできません。

 

③子どもたちは母親の死亡を停止条件とする死因贈与契約を結びます。

 

売却ができない母親の相続持分を母親が亡くなったときに贈与するという契約を,子どもたち全員が買主と死因贈与契約を③の売買契約と同時に結びます。認知症の母親は契約の当事者ではありません。

 

母親の死亡時に母親の相続人である子どもたちが買主に贈与します。

 

母親が死亡したときの相続人は通常は父親の相続人(母親を除く)と同一です。父親の相続財産である自宅の土地建物のすべての権利を,買主はこのとき初めて手に入れることになります。

 

たとえば,母親より先に子どもたちの誰かが亡くなり代襲相続などが発生した場合にも,他人物の贈与契約として有効です。もし,母親の持分を贈与できない場合には,違約金を支払う特約を結んでおきます。なお,買主が個人の場合には,母親の持分が110万円を超えるときにはその超える部分が,買主に対する贈与税の課税対象になりますので注意が必要です。

 

4.まとめ

 

遺産分割協議が必ず必要というわけではないということです。

 

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