法的な効果を持つ遺言事項と持たない付言事項

遺言書の書き方を一般の人向けに指南する本などを見ますと,遺言執行者のことについて説明しているものが少ないような気がします。

 

たとえば,わたしの手元にある本には,その必要性につて「遺言内用を確実に,スムーズにおこなうために遺言執行者を指定しておくことができます。」と解説しています。『遺言の書き方と相続・贈与』主婦の友社,平成22年12月20日第7刷り。

 

遺言執行者について,もう少し細かく見ていきたいと思います。

 

1.遺言できる事項

 

遺言ができる事項は法律で決められています。それ以外の事項は遺族を拘束するものではありません。亡くなった人の財産の処分については遺言事項だということはご存じだと思います。それ以外にも,結婚していない女性との子どもを自分の子であると認める(認知)ことも遺言できる事項とされています。

なお,念のために申し添えれば,遺言をすることができる事項であるからといって,その全部の事項を遺言する必要はありません。自分がこの項目はこうして欲しいと考える項目だけを遺言とすればよいのです。

 

参考:法定遺言事項と付言事項

 

2.遺言の執行が不要な事項

 

遺言がなされた事項でも,とくに遺言の執行がいらないものがあります。遺言者が死亡することによって,なんの手続も必要とせずに効力が発生するものがあります。

 

主なものは次の事項です。

①未成年後見人の指定(民法839条)

②相続分の指定(民法902条)

③特別受益の持戻し免除(民法903条3項)

④遺産分割方法の指定(民法908条)

⑤遺産分割の禁止(民法908条)

⑥遺言執行者の指定(民法1006条)

⑦遺言の撤回(民法1022条)

⑧遺留分減殺方法の指定(民法1034条)

⑨その他

 

3.遺言の執行が必要になるもの

 

遺言の執行が必要になるものはふたつに区分できます。遺言執行者にしかできない事項と遺言執行者がいないときには相続人が共同してできる事項とに別れます。

 

(1)遺言執行者にしかできない事項の手続

 

遺言執行者のみにその手続が認められてい事項があります。

①認知(民法781条2項,戸籍法64条)

②推定相続人の廃除(民法893条)

③推定相続人の廃除取消し(民法894条2項)

④一般財団法人の設立行為(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項,157条)

 

(2)遺言執行者がいなくても法定相続人が共同して執行することができる事項

 

遺言執行者が決められていない場合には,法定相続人が共同して処理できる遺言事項があります。

①遺贈(民法964条)

②信託の設定(信託法2条,3条)

③生命保険金受取人の変更(保険法44条)

④その他

 

ただし,遺言執行者が後に選任された場合には,遺言執行者選任後は法定相続人は処理できなくなります。遺言執行の処理は,遺言執行者のみの権限になります。

 

4.遺言執行者の仕事

 

遺言がおこなわれたときに,その遺言の内容を実現する手続をおこなうことが,遺言執行者の仕事になります。3.の遺言執行が必要になる事項のすべてが遺言執行者の果たすべき業務ということになります。

 

5.まとめ

 

長くなってきましたのでいったんまとめます。

遺言執行者がいなければどうしてもできない遺言事項は,限られています。遺言執行者でなければできないと法律で決められた4つの遺言事項を除き,遺言内容を実現するための処理は,法定相続人が共同すれば実行可能です。

したがって,どうしても遺言書において遺言執行者を選任しておかなければいけないわけではありません。

 

次回において,遺言において遺言執行者を決める場合,死亡後に遺言執行者を決める場合について眺めたいと思います。

 

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