物を捨てることはできる。では,土地建物を捨てることはできるだろうか。

この記事は岡本政明法律事務所の「不動産の格差社会到来(その1)」から「不動産格差が生じる原因と文化度のチェック(その6)」までのコラムを参考にさせていただいております。

 

一 所有権の放棄

 

1 動産の放棄(民法239条1項)

物をゴミ箱に捨てればそれは所有権を放棄したものと見なされて,持ち主のいない物(無主物)となります。それを拾えば拾った人の物になります。こうした状況を無主物先占と呼ぶことがあります。
動産の放棄はいらない動産を捨てればそれでよいのです。

 

2 不動産の放棄(民法239条2項)

 

(1)法文上の理解

不動産とは土地と建物のことを言います。それでは土地や建物が不要であれば,いらないよと言えば土地や建物をそれで捨てたことになるのでしょうか。
無主物の不動産(捨てられた土地や建物)は国のものになると民法で決められています。

 

(2)国の解釈

法文上をそのまま理解すれば,不動産の所有権が放棄されれば当然に国が所有者になると考えます。
ところが,国の考えは違うようです。

この件について照会に対する民事局の回答があるようです(昭和41年8月27日付民事甲第1953号民事局長回答)。

照会①「不動産土地所有権を放棄して所有権を国に帰属せしめたい。」
照会②「不動産放棄の登記上の手続方法を指示して欲しい。」

回答①「所有権の放棄はできない。」
回答②「前項により了知されたい。」

つまり,国(民事局)の判断は所有権は放棄できないというものです。

 

3 不動産所有にともなう責任

不動産を放棄できないことにともない種々の不利益が生じます。

 

①固定資産税の納税義務
所有している限り納税義務が続きます。

②所有者・占有者責任(民法717条)
その不動産が本来備えている安全性を欠くときには,所有者は過失があってもなくても責任を追及されます。一般の賠償責任より重い責任が要求されています。

③業務上業務上致死傷罪の責任
その危険性を知っていて放置しておいて事故が発生したときには,刑事責任をも問われることがあります。

 

二 相続の放棄と所有権の放棄との相違

 

1 相続の放棄

相続の放棄をするには,すべての相続財産を放棄する必要があります。
土地や建物はいらないが,現金・預金は相続したというようなことはできません。また,この土地は相続するが,こちらの土地はいらないということもできません。
借金も含めてすべてを相続するかしないかなのです。

 

2 所有権の放棄

ここで取り上げているのは,この土地はいらない,この家はいらないという個々の動産・不動産についての所有権の放棄です。

私も,父の死亡にあたり相続した土地について袋地で経済的な価値を持たないものがあることを,相続登記後の固定資産の請求によってに気づきました。そこでこの劣悪不動産である土地を処理しようと考えました。どうも,物は捨てることはできても,不動産は捨てることができないと気づきました。
それが,このテーマのブログを書くきっかけでもあります。

 

3 相続の放棄と所有権の放棄との違い

相続時において相続財産のすべての所有権を放棄することは可能です。民法においてその手続について定められています。ただし,一部だけを相続して他を放棄するということは認められていません。
相続時以外においては,動産の所有権の放棄はできますが,不動産の放棄は実務的には不可能です。国庫に帰属させる登記手続手順が決められていないのです。

 

三 まとめ

 

物(動産)は捨てることができますが,土地建物(不動産)捨てることはできません。したがって,とくに土地は消滅しない限り,また相続において他のすべての相続財産とともに放棄しない限り,その所有権は永遠に続きます。所有が続く限り,納税義務・所有者責任・刑事責任が付きまといます。

 

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