寄与分についての遺言は可能でしょうか(遺言事項)

 前回,遺産分割時のもめ事の多くは,特別受益と特別寄与分の評価から起こるということを見てきました。
 その解決には,遺言がひとつの方法だといいました。
前回のブログ:「親の世話をした相続人が一番財産を多くもらうのは当然か」(特別寄与分と特別受益)

 

 今回は,特別受益に関する遺言や寄与分に関する遺言は可能かということについてみていきます。

 

1 遺言事項と付言事項

 

 遺言は,その方式について厳格に形式が定められています
また,遺言できる事項についても定められています。それ以外の事項についてかりに遺言がされていても,その事柄については遺言としては効力がなく,たんなる遺言者の希望事項として扱われます。この希望事項を付言事項と呼んでいます。

 

 以下の遺言事項・付言事項の細かい内容に興味がない方は以下は読み飛ばして,「2 特別受益の持戻しに関する遺言の効力」から続けてご覧ください。

 

(1)遺言事項

 

①法定相続関係

1.推定相続人の廃除(民法893条)および廃除の取消し(民法894条2項)
2.相続分の指定(民法902条)
3.遺産分割の指定または禁止(民法908条)
4.遺産分割の際の担保責任に関する別段の定め(民法914条)

②財産処分関係

1.包括遺贈・特定遺贈(民法964条)
2.受遺者の相続人の承認・放棄(民法988条)の事項についての別段の定め
3.遺言の効力発生前の受遺者の死亡(民法994条2項)の事項についての別段の定め
4.受遺者の果実取得権(民法992条)の事項についての別段の定め
5.遺贈の無効または失効の場合における目的財産の帰属(民法995条)の事項についての別段の定め
6.相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の責任(民法997条2項)の事項についての別段の定め
7.第三者の権利の目的たる財産の遺贈(民法1000条)の事項についての別段の定め
8.受遺者の負担付遺贈の放棄(民法1002条2項)の事項についての別段の定め
9.負担付遺贈の受遺者の免責(民法1003条)の事項についての別段の定め

③遺言の執行・撤回関係

1.遺言執行者の指定(民法1006条1項)
2.遺言執行者の復任権(1016条1項)の事項についての別段の定め
3.共同遺言執行者(民法1017条1項)の事項についての別段の定め
4.遺言執行者の報酬(民法1018条1項)の事項についての別段の定め
5.遺言の撤回(民法1022条)

④遺留分関係

1.目的物の価額による減殺(民法1034条)の事項についての別段の定め

⑤家族関係

1.遺言認知(民法781条2項)
2.未成年後見人の指定(民法839条)
3.未成年後見監督人の指定(民法848条)

⑥法文にはないができると解釈されている事項

1.祭祀主宰者の指定(民法897条)
2.特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
*解釈で拡大する可能性がある。

⑦民法以外の法律に定められた遺言事項

1.一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法に関する法律152条2項)
2.信託の設定(信託法3条2号)
3.保険金受取人の変更(保険法44条,73条)

 

(2)付言事項

 

 遺言事項毬の遺言に欠かれているすべての事項は付言事項となります。
 たとえば,葬式の方法,結婚や養子縁組の指定,介護や不要の方法,遺訓などは,付言事項であり,法的効力はありません。付言に従うかどうかは,相続人の自発的な意思にまかされています。

注:遺言事項,付言事項については,二宮周平著『家族法 第4版』(新世社)を参考にしています。

 

2 特別受益の持戻しに関する遺言の効力

 特別受益の持戻しは,遺言によるという法文の定めはありませんが,遺言によることが可能である事項と解釈されてます。
 したがって,特別受益の持戻しを免除するという遺言があれば,たとえ特別受益があったとしてもその特別受益を相続財産に加えた上で,遺産分割協議をする必要はありません。

 

3 特別寄与に関する遺言の効力

 遺言により定めることができる事項でないために,かりに遺言に定めがあっても無効です。
「分割にあたり寄与分は考慮しない」と遺言を残したとしても,その遺言は無視され,遺産分割にあたって寄与分は当然に考慮されることになります。つまり,民法904条の二(寄与分)の規定に従うことになります。

 

4 まとめ

 遺言をすることによって,遺産分割時に起こるトラブルを避けることができる事柄もありますが,遺言では避けることができない事柄もあるわけです。
 今回の例では,特別受益に関する争いは遺言を残すことによって解決が可能です。しかし,特別寄与分に関する争いは遺言を残しても解決はできないことになります。

 

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