読点が,裁判結果の明暗を分けることも(契約における読点の重要性)

本件で問題となったのは生命保険の特約では,保険金等の支払いがされないとなっていたところ,原告女性は,保険の責任開始日から90日後に乳がんにり患しているとの確定診断がされたため,「90日以内に・・・意思による確定診断された」とはいえないとして,保険金の支払い等を求めたというものです。保険会社側は,「90日以内に」というのは,「乳房の悪性新生物にり患し」のみにかかり,「医師による確定診断」が90日より後であった場合は含まないと反論しました。

情報源: 生命保険契約における「90日以内に・・・にり患し,医師による確定診断がされたとき」の解釈|弁護士江木大輔のブログ

 

1.読点の使い方について

 

 読点の使い方については,文章術と呼ばれる本を読むと,必ずといっていいほど出てきます。句読点を打つ位置によってまるで意味が変わったしまうことも出てきます。

 たとえば,「美しい水車小屋の娘」についてかんがえてみましょう。
美しいのは水車小屋でしょうか,それとも娘なのでしょうか。
このままですとどちらに読んでも誤りとは言えません。

 もし,娘が美しいと伝えるつもりであれば,「美しい,水車小屋の娘」と読点を打たないと水車小屋が美しいと誤解をされるおそれがあります。

 

 「、」あるいは「,」の打ち方については,そうした本をお読みになってください。
 簡単そうで,なかなか使い方が難しいです。ご自分で契約書を作成する場合には,十分な注意が必要となります。
 句読点の使い方について書かれた本の一押しは本多勝一の『日本語作文技術』です。

 

2.句読点について裁判所が行った判断例

 

 上で見た「美しい水車小屋の娘」におけるのと同じ意味合いで,読点の打ち方が争点となった裁判例がありました。それが,冒頭に引用した記事です。
 記事に寄りますと,読点を打った位置が裁判結果を左右する一因となっています。

 

3.句読点の位置による争点

 

 争点となった約款は
「責任開始日から90日以内に乳房の悪性新生物にり患し,医師による診断確定されたとき」
給付金を支払うとなっていました。


 この約款の解釈については,原告・被告の主張にそれぞれ一理あることになります。

注:約款というのはあらかじめ契約の内容が定められている契約のことをいいます。

 

(1)原告側の主張

 

 原告側は生命保険の特約の約款を次のように解釈しました。
「医師による乳がんの確定診断は,責任開始日から90日を経過していた。したがって,給付金を支払うべきだ。」と主張しました。

 つまり,「責任開始日から90日以内に・・・・・・医師による診断確定されたとき」と「90日以内に」のあとに読点が打ってあると同様な読み方をしたわけです。

 

(2)被告側の主張

 

 「90日以内に」というのは,「乳房の悪性新生物にり患し」のみにかかり,「医師による確定診断」が90日より後であった場合は含まないと主張しました。

 つまり,「責任開始日から90日以内に乳房の悪性新生物にり患し,(かつ*注)医師による診断確定されたとき」と素直な読み方を主張しています。
注:(かつ)は私が理解しやすくするために付記したものです。

 

(3)裁判所の判断

 

 以下①,②の理由などをあげて,裁判所は被告側に軍配を揚げました。

 

約款には「90日以内に」のあとに読点が打たれていないので,原告側の主張をそのまま受け入れるわけにはいかない。

②契約時に契約者に渡される「ご契約のしおり」には,「責任開始から90日以内にり患した乳がんには,お支払いしません」と記載されている。

 

3.まとめ

 

 読点があるかないかによって,その文章が書いた人の意図と違って解釈される恐れが出てきます


 契約書をご自分で書くときには,読点の使い方にも配慮が必要です。

もし,この約款が「「責任開始日から90日以内に,乳房の悪性新生物にり患し,医師による診断確定されたとき」と「90日以内に」の後に読点が打たれていたとすれば,また違った結果になったかもしれません。

 

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