高齢者の財産管理と成年後見制度,信託制度

1.高齢者の財産管理の態様

 

(1)身体的な能力の衰えに備える財産管理

 

 判断能力に衰えはないが,身体的な能力の衰えにより支援が必要なることが出てきます。
 銀行に行って預金を下ろしてくるのが億劫になる。日常の諸手続を負担に感じる。貸家の賃料の取り立て,修理などの管理が辛くなる。など,若い頃にはどうということもない日常的なことに,誰かの支援がほしくなることが出てきます。

 

(2)精神的な能力の衰えに備える財産管理

 

 体力的な衰えはないが,判断能力の衰えが感じられるようになり支援が必要になってきます。
高額な商品の購入,複雑な取引などは,とくに支援が必要になります。また,最近では判断能力の衰えにつけ込んだ詐欺が横行して,社会問題になっています。振り込め詐欺がその典型です。

 

(3)身体的・精神的能力の衰えに備える財産管理

 

 身体的能力,精神的能力の両者に衰えが出て支援が必要な人もいます。
介護認定の手続き,介護施設への入所手続き,費用の支払いなどの支援が必要になります。

 

(4)死後に備える財産管理

 

 本人の死後の財産処理について一定の配慮を希望する人もいます。
亡くなった直後の治療費の支払い,葬儀費用の支払い,納骨・供養などの費用に支払などが発生します。こうした死後の支払費用などについて生前に本人が手当てをしておきたいという配慮がなされます。
 また,本人亡き後の家族や親しい人の行く末を案じて,遺言を残すこともあります。

 

2.高齢者の財産管理の法的制度

 

 高齢者特有の財産管理を支える大きな法的制度として,成年後見制度と信託制度があります。
その他一般的な法律の財産管理制度としては,委任・代理・消費寄託などがあります。

 

(1)成年後見制度

 

 成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
 参考ブログ:「任意後見と法定後見との関係

 

①法定後見制度

 

 判断能力の程度に応じて後見,保佐,補助の三段階の支援レベルが設けられています。
 判断能力が減少して初めて支援が開始される制度です。
 また,支援者(後見人,保佐人,補助人)は家庭裁判所が選びますので,本人の意に沿わない人物が支援者となってしまうこともあります。
 後見・補佐の支援を受ける人は,会社の役員ではいられないなど職業の制限を受けることがあります。
参考ブログ「法定後見等が開始されると本人の選挙権などはどうなりますか

 

②任意後見制度

 

 判断能力の低下がみられたときに初めて,任意後見人の支援を受けます。
 支援する人(任意後見人)は,あらかじめ本人が公正証書による契約を結んだ人です。
 任意後見の支援を受けても,法定後見の支援を受ける人とは違い,職業の制限を受けることはありません

 

(2)信託制度

 

 成年後見制度と並んで高齢者の財産管理に有用な制度として信託制度が注目を浴びています。
 信託制度は自分の財産を信頼する人に預けて,特定の人やことのために管理・運用・処分をしてもらうことをいいます。

 信託の目的・スキームに合わせて家族信託,福祉型信託などと呼ばれています。ここでは,信託会社が扱ういわゆる商事信託は除いて話をしています。

 さらに名前を列挙すると,高齢者福祉信託,福祉型遺言信託,遺言代用信託,任意後見支援信託,遺言信託,死後事務委任信託など百出です。

 

3.成年後見制度の財産管理の限界

 

(1)支援開始の時期

 

 成年後見制度は判断能力の低下したときでないと利用できないという弱点があります。
身体能力の低下には対応ができません。

 

(2)支援権限の終了時期

 

後見人等の任務は本人が死亡した時点で終了してしまいます。死後の事務については原則として後見人等は処理する権限がないのです。
死後の財産管理は相続人の役目です。後見人等は速やかに支援していた人の財産を相続人に渡さなければなりません。

 

4.まとめ

 

 成年後見制度の限界を補う方策として,信託制度の利用が工夫されています。
 判断能力の低下がなくても支援を開始すること,死後直後の仕事(死後事務),相続財産処分などの分野にまたがって,信託制度が活用できます。

 

信託制度の紹介を今後このブログで続けていきます。

 

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