遺言書作成にともなうリスク(遺言の撤回と遺言能力)

 相続に関する記事を読むと,必ずといっていいほど遺言書作成を勧めるものが多いです。
遺言書作成は遺産相続の争いに決着を付けるには十分な効果を持っています。
 しかし,メリットだけでなく,デメリットもあることも理解したうえで遺言制度を利用するのが望ましいと思います。
 今回は,遺言書作成にともなう好ましくない点について考えてみます。

1.遺言の効力

(1)遺言の効力発生時期

 遺言は遺言者の死亡の時から効力が発生します。(民法985条)
 このことから,遺言の効力が発生するのは通常は遺言がなされてからかなりの時間の隔たりが予想されます。その間に,遺言を作成したときに想定していた家族環境が大きく異なってしまい,遺言を修正する必要が出てくることは十分考えられます。

(2)遺言の撤回

 いったん行った遺言は,その遺言者が撤回しないかぎり有効です。(民法1022条)
 撤回は法律が定める方式に従ってしなければ,撤回したことにはなりません。法律に従った撤回でないものは無効です。
 つまり,遺言を撤回するには遺言能力が必要になるのです。

ア 遺言撤回の方式
①遺言の方式に従って撤回

 新たな遺言によって前の遺言を撤回します。
 前回にした遺言の方式とは別の遺言の方式によって撤回することも認められています。たとえば,前回の公正証書遺言を今回は自筆証書遺言の形式で撤回することができます。

②法定遺言撤回

 一定の事実が認められる場合には,以前になされた遺言は撤回したものと見なされます。
・前の遺言と後の遺言の内容が抵触する場合や遺言した財産を死亡する前に処分してしまった場合など(民法1023条)
・遺言書や遺贈したものを破棄したり壊した場合(民法1024条)。

 つまり,後の遺言の内容を実行しようとすると,以前の遺言の内容と矛盾してしまう場合は,その矛盾する部分の遺言は撤回されたとみなされます。

2.遺言能力

 次の二つの条件を満たす人は遺言をすることができます。
 行為者本人保護の制度である行為能力制度は,遺言には適用されません。
 したがって,制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人,被補助人)も後見人などの同意はいりません。

(1)年齢制限

 15歳にならないと遺言をすることはできません。(民法961条)
 15歳に満たない人がした遺言は無効です。親が同意したり,追認したり,子に代わって代理して遺言することはできません。

(2)意思能力

 遺言内容を理解し,遺言の結果を予測できる(弁識しうるに足る)意思能力が必要です。15歳になっていてもこの意思能力(遺言能力)がない場合は,遺言は無効です。

 遺言をするに足る意思能力である遺言能力は,遺言によってなされる内容の難易度,遺言される財産額などによって,その程度は異なってきます。遺言能力程度は個別具体的な遺言についてその程度は異なります。また,財産の管理能力までは要求されません。

3.遺言書作成のリスク

 一度作成した遺言も家族関係の変化にともない修正する必要が出てきます。特に,若年の時期に作成した遺言は,その効力が発生するまでの期間が長くなりますので,以前の遺言の内容を変更する必要が強くなります。
 しかし,以前の遺言の内容を撤回して,新しい内容の遺言を作成することが制限される場合が出てきます。まったく自由には,前遺言を撤回して新たな遺言をするわけにはいかないのです。

(1)遺言書撤回の形式

 遺言書の撤回は,遺言作成の方式に従わなければなりません。正式な撤回が行われるまで以前の遺言の内容が有効のまま残ってしまいます。また,遺言書に方式上の誤りがある場合には,その遺言で撤回したつもりの遺言が依然として有効のままであるという恐れも出てきます。

(2)遺言能力

 遺言の撤回をして新しい遺言書を作成するためには,遺言能力が必要になります。
 遺言書作成時の遺言能力の程度によっては,有効な遺言書を作成することができなくなるおそれがあります。

4.まとめ

 遺言書作成は相続にともなう争いに決着を付ける効果は大きいが,一度作成した遺言を撤回するには法律に従った撤回の方式をとらなければならないという不都合な面も出てきます。最悪の場合は,遺言能力の低下により以前の遺言の内容を撤回できない恐れも,出てきます。

 遺言書作成の必要性をよく検討したうえで,遺言書作成を行うことが望ましい気がします。民法に定めてある法定相続の規定で過不足がなければ,遺言書作成の必要はないでしょう。

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