後見人の数は多いほどいいか(任意後見)

1.任意後見制度

(1)任意後見契約

 委任契約の一種です。
 任意後見契約に関する法律にしたがって,公正証書で契約を結びます。

(2)後見人受任者

 この任意後見契約を結ぶときに,指名する人のことを後見人受任者と呼びます。

(3)任意後見人

 判断能力が不十分な状況になったとき,関係者の申立てで家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されます。
 この選任によって任意後見契約は効力を発生します。
 任意後見契約が発行した以降,指名を受けていた後見人受任者が正式に任意後見人となります。

こちらのブログも参照してください:「任意後見と法定後見の関係

2.任意後見人の数

 前回,法定後見人の数についてお話をさせていただきました。
後見人の数が多いと報酬もたくさん支払わなければいけないのか(複数後見人)
 法定後見人の数をどうするのかは,最終的には家庭裁判所が決めます。

 任意後見契約では,一般の委任契約と同様に複数の人と契約を結ぶことができます。つまり,複数の任意後見人が可能となります。

3.複数後見人の長所・短所

 前回のブログでも触れましたがもう一度書いておきます。

(1)共同代理方式の長所・短所

 共同代理方式とは,常に受任者である任意後見人全員によらないと代理権を行使することができない方式です。
 本人と複数の受任者との契約は一本の不可分の契約となります。そして,共同代理について任意後見契約公正証書に明記され,登記がされます。複数の任意後見受任者がいますが,登記はひとつだけです。

ア 共同代理の長所

一人の任意後見人の考えで独走される危険を避けることができます。受任者相互に監視してもらうことによって,不正や誤りを防止することが可能になります。

②本人の判断能力不十分な状態になったとき,家庭裁判所に申し立ててもらうことができ,任意後見契約の効力をすみやかに発生させることができます。

イ 共同代理の短所

①任意後見受任者あるいは任意後見人の一人でも問題がありますと,任意後見契約の全体の効力が発生しなかったり,失効することになります

 このことは,任意後見監督人を家庭裁判所が選任する場面でも起きますし,任意後見人が契約に基づいて支援を開始した後の場合にも起こりえます。

 たとえば,任意後見受任者の一人に不正の行為などがあった場合に,家庭裁判所は任意後見監督人を選任することができません。したがって,任意後見契約は効力が生じません。
 また,任意後見人のうちの一人に不正の行為などがあった場合に,家庭裁判所はその任意後見人を解任します。そうなりますと,任意後見契約は効力を失ってしまいます。

②任意後見人の間に意見の食い違いが生じた場合に,任意後見契約による支援が滞ってしまいます

(2)各自代理方式の長所・短所

 各自代理とは複数の任意後見人が単独で独自に代理権を行使することを言います。
 共同代理の場合と違い,各自代理の契約は一つの公正証書による契約によっても,また複数の公正証書による契約によっても可能です。
 登記は一通の公正証書であっても,任意後見人受任者のかずだけの登記が必要です。

 なお,各自代理方式には,各自が代理権の全範囲を各自単独でおこなうものと,代理権の範囲の一部を各任意代理人が分担するものとがあります。

ア 各自代理方式の長所

①一人の任意後見人受任者に不適任の者があっても,任意後見監督人は選任され契約の効力は発生します。
 また,一人の任意後見人に不適任の者があっても任意後見契約が効力を失うことはありません

②共同代理と同様に複数の任意後見受任者が関わっていますので,本人の判断能力不十分な状態になったとき,家庭裁判所に申し立ててもらうことができ,任意後見契約の効力をすみやかに発生させることができます

イ 各自代理方式の欠点

①各任意後見受任者ごとに任意後見監督人の選任が行われます。このため,甲との任意後見契約は効力を発生しているが,乙との任意後見契約は発生していないという状況が考えられます

 この場合において,乙との間に財産管理契約が結ばれているときには,本人の判断能力が不十分になっているにもかかわらず,甲の任意後見監督人は乙の行動を制限できないという不都合が生じます

②任意後見人の意見の食い違いがあるときには,矛盾した内容の代理権が行使されるおそれがあります。
 また,代理権の範囲の分担されている場合に,その分担した者が欠けたときには,その部分の代理権がないことになります。そのために,任意後見の支援がうまくいかなくなることも考えられます。

4.まとめ

 任意後見における複数代理人は,長所もあり短所もあります。
 本人の判断能力が不十分になり,任意後見契約の効力が発生する状況になりますと,判明した短所を修正する新たな任意後見契約を結び直すことは通常は本人の判断能力の故に困難です。

            055-251-3962    090-2164-7028

                                         困り事や相続・遺言のご相談,許認可のお問い合わせは

                                                                                   ⇒ 神宮司行政書士事務所