遺言だけではない生前にする遺産分割指示方法(遺言代用信託)

 自分の財産を自分の死後誰にどのように残したいかを,生前に指示する方法は遺言だけではありません。
 今回は,それを見てみようと思います。

1.生前にする遺産処分指示方法

(1)遺言

 法律で決められている自分の死後の遺産処分方法を,自分の考えによって修正する方法です。
 民法に定められている厳格な遺言の方式に従う必要があります。

 普通には次の方式にしたがって自分の意思を表明します。(民法967条)

①自筆証書
②公正証書
③秘密証書

(2)死因贈与契約

 自分が死亡したときに契約が有効になるとする内容の贈与契約。(民法554条)
 民法の遺贈の規定が準用されます。

(3)遺言代用信託契約

 信託契約を結ぶことによって自分の死後の財産の処分を指示します。(信託法90条)
 詳細については次項。

 なお,遺言のなかで信託の設定をおこなうものを「遺言信託」といいます。この「遺言信託」は契約によってする信託である信託契約の一種の「遺言代用信託」とは違います。混同する可能性がありますので注意が必要です。

2.遺言代用信託契約

(1)遺言代用信託の種類

 法定されている遺言代用信託は次の2種類が想定されています。(信託法90条 任意規定)

①委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
 本来的に委託者の死亡時までは受益権を取得しない信託

②委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
 本来委託者の死亡以前から受益権を取得するのが原則であるが,信託法90条2項の規定により委託者が死亡するまで受益者の権利を有しないとされている信託。

(2)両者の区別の意味

 家族を中心とする信託契約において,両者の区別は実務上それほど重要であるとは思われません
 受益権の取得の時期,贈与税の課税の有無に影響が出てくる場合が考えられます。

(3)遺言代用信託の仕組みを利用した典型契約例

 委託者の長男に財産を信託して,委託者自身を委託者の生存中の受益者とする。委託者家族である子と配偶者を委託者の死亡後受益者とする信託が想定されます。

 自益信託でスタートする。当初受益者(兼委託者)が死亡すると他益信託になり,その信託において指名されていた死亡後の受益者が受益権を得るという定めがある信託であるということもできます。

(自益信託とは委託者が自分を受益者とする信託であり,他益信託とは委託者が自分以外の人を受益者とする信託のことをいいます。)

 委託者が信託した財産からの利益を受ける権利が,委託者自身から第二受益者に,委託者の死亡にともない相続されるようなかたちになります。つまり委託者の死亡が受益者交替の条件となっています。

3.まとめ

 自分の財産を自分の死亡後どう分割すれば,残された家族の幸せを最大限にできるかを考え,それを法律的に意思表示する方法はひとつではありません。

 遺言・遺贈・遺言代用信託を考慮しながら,最適な死亡後の自分の財産処分を総合的に考えてみましょう。

            055-251-3962    090-2164-7028

                                         困り事や相続・遺言のご相談,許認可のお問い合わせは

                                                                                   ⇒ 神宮司行政書士事務所