成年後見等の申立て時の鑑定および医師の診断書

 成年後見等を申立てる場合に鑑定が必要になることがあります。今回はこの鑑定についてみていきます。
 前回お話しした成年後見制度における書類の改訂にともない、鑑定の取扱に変化が見られる可能性もあります。従来にも増して鑑定制度の趣旨に沿った運用がなされるのではないでしょうか。

1.鑑定が必要になる後見類型(後見・保佐)

(1)法定後見制度の三類型

 法定後見制度は、精神上の障害により事理を弁識する要支援者の能力の程度に応じて、三つにグループ分けがされています。事理を弁識する能力とは判断能力を意味します。

 ①成年後見:支援を受ける人が判断能力を欠く常況にある場合
 ②保佐:支援を受ける人が判断能力において著しく不十分である場合
 ③補助:支援を受ける人が判断能力において不十分である場合。

(2)鑑定の原則実施

 鑑定が原則必要になる後見類型は成年後見と保佐です。
 成年後見については家事事件手続法119条1項本文に規定し、保佐については家事事件手続法133条が同119条を準用しています。

(3)鑑定不要の場合

 明らかにその必要がない場合には、鑑定を省略することができます。(家事事件手続法119条1項ただし書)
 明らかにその必要がない場合とは、植物状態に陥り常時寝たきりの常況であるなどがその例になります。

(3)鑑定の過去の実施状況

 鑑定の実施率は平成29年は8.0%でした。前年の平成28年は9.2%。
 鑑定の実施率はこの十年間を見ると毎年減少しています。平成20年は27.3%でしたが、年々鑑定実施率は減少し平成29年は8%にまで減少しています。

 *鑑定の実施率、次項における鑑定の費用の統計は「成年後見関係事件の概況―平成29年1月~12月-」(最高裁判所事務総局家庭局)によります。

(4)鑑定の費用

 平成29年の鑑定の費用は10万円以下が全体の97.5%、5万円以下が57.8%でした。
 鑑定にはおおよそ10万円以下、その半分は5万円以下の費用が必要だということになります。

(5)鑑定実施率の低下の利益と不利益

 鑑定を要する成年後見等の申立てが減少するのは、申立てにかかる費用が少なくてすむという点では歓迎できます。しかしながら、申し立てられた類型の妥当性を深く審査されることなく、類型が決定されてしまうという危険性が高くなるともいえます。
 後見類型の妥当性を慎重に審査するため、鑑定が必要となる成年後見等の申立てが結果的に増加するかもしれません。

 そうした鑑定省略の危険性を指摘する裁判の一例として、名古屋高裁の「鑑定を経ておらず手続きが違法」という2017年の決定があります。
 「精神鑑定せず後見は違法 名古屋高裁、家裁審判覆す」(2017/11/8 日経記事)

(6)鑑定人の資格

 法文上は鑑定人の資格は定められていません。
 とはいえ、精神の状況について鑑定をするということの性質から考えると、医師またはそれに準ずる専門性を持つ者が適任と考えられます。
 実務上は鑑定人として医師を家庭裁判所任命しています。精神科・神経内科などの専門医や継続して長期間本人を診察してきたかかりつけ医などが鑑定人になります。

2.鑑定不要の後見類型(補助)

 補助においては鑑定にかえて医師などの専門家に意見を聞く必要があります。原則として鑑定は必要ありません。
 医師その他適当な者に精神の状況に関する意見を聞かなければ、家庭裁判所は補助開始の審判をすることができないとされています。(家事事件手続法138条)

3.診断書

 上記のとおり鑑定書は省略することは可能ですが、医師の診断書はどの後見類型でも原則必要です。
 前回お話ししたように四月以降、成年後見制度における書類の改訂にともないこの診断書も改訂となります。
 (家事事件手続法119条2項、133条、138条)

4.まとめ

 後見・保佐については鑑定は原則必要ですが、例外的に省略が可能です。補助については鑑定不要ですが、医師の診断書は必要です。 

 

 なお、4月以降の書類改訂の影響について。
 診断書改訂は後見類型の診断プロセスを分かりやすくするのが目的とされています。それにともない、本人の精神状況に従った後見類型判断の慎重を期するために、さらに鑑定が必要とされることも想定されます。

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