【民法相続改正】遺産分割の時も配偶者は優遇されます(居住用不動産贈与の持戻し免除の意思表示推定)

1.民法相続法関連の改正における配偶者への厚い配慮

 2019年7月1日施行の民法相続関連の改正において、配偶者への配慮がうかがえます。次のふたつ①、②の配偶者保護の制度についてはすでに取り上げました。

①配偶者短期居住権の新設(民法1037条)
 亡くなった人(以下、被相続人といいます。)の財産である建物に住んでいた配偶者は、無償で遺産分割が終わるまで住み続けることができます。
 被相続人と生前その建物に同居している必要はありません。

②配偶者居住権の新設(民法1028条)
 生前に被相続人所有の建物に住んでいた配偶者は、遺産分割協議によってまたは遺贈されることによって、終身無償でその建物に居住できる権利を取得することができます。
 配偶者短期居住権の保護をさらに厚くしたものと言えます。

 詳しくは、下記ブログを参考にしてください。
ブログ:配偶者短期居住権前編 配偶者短期居住権後編
    配偶者居住権

③持戻し免除の意思表示推定規定(民法903条4項)
 今回は、婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与・遺贈は、特別な意思表示をしなくても特別受益の繰戻し免除が推定されるという規定について見ていきます。
 配偶者へ自宅(居住用建物またはその敷地)が贈与・遺贈がなされた場合、被相続人が特別な意思表示をしなかったときには、その贈与・遺贈されたものも相続財産に加算されるのが原則です。この加算を免除しようと考えた推定規定です。

2.持戻し免除の意思表示推定規定(民法903条4項)

(1)相続財産の額の計算(民法903条1項)

 相続財産価額は①に②を加え、みなし相続財産価額とします。
①被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額
②特別の贈与の価額(特別受益)
 特別受益とは、結婚・養子縁組・生計の資本としての贈与をいいます。

(2)特別受益の繰戻し免除の意思表示(民法903条3項)

 特別受益を加算するのが原則ですが、被相続人が相続財産に特別受益を加算する必要はないという意思表示をした場合には、特別受益の繰戻しが免除されます。

(3)意思表示なき場合の推定(民法903条4項)

 もし、特別受益の繰戻し免除の意思表示がなさずに相続が開始された場合には、配偶者に限って持戻し免除の意思表示がされたと推定される遺贈・贈与が規定されました。
 対象となるのは居住用不動産(居住のための建物またはその敷地)で、婚姻期間が20年以上の夫婦間における遺贈または贈与です。

 推定という意味は、持戻しを免除していないというのならそう主張する人が証拠を示して反論しなさいということです。反証に成功しないときには、免除されたものとされます。

3.推定規定がもたらす配偶者に与える利益および効果

 以下の相続例でその効果・利益を示します。
 持戻し免除の推定がなされた場合には、なされない場合に比べて妻の実質的取得額はこの例では2000万円多く受け取ることになります。
 なお、生前贈与時の贈与税の優遇措置については以下のブログを参照してください。
  ブログ:おしどり贈与

相続例
 相続人 :妻と子(1名)の2名
 相続財産:預貯金 5000万円
 妻へ贈与:居住用不動産(土地・建物)相続時評価額5000万円

①持戻し計算された場合の妻の取得額
 みなし相続財産=5000万円+5000万円=1億円
 妻の取得額=1億÷2-5000万円=0円
  子の取得額は5000万円です
 注:妻の生前贈与分を含めた取得額は0円+5000万円=5000万円

②持戻し免除の推定がなされた場合の妻の取得額
 みなし相続財産=5000万円+0円=5000万円
 妻の取得額=5000万円÷2-0円=2500万円
  子の取得額は2500万円
 注:妻の生前贈与分も含めた取得額は2500万円+5000万円=7000万円

4.まとめ

 

 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈または贈与は、とくに特別受益持戻しの免除の意思表示がされなくても、その免除の意思表示がなされたと推定されます。この推定規定により、配偶者の保護が図られています。

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