印鑑でなくてサインじゃダメなの?(印鑑・署名の法的効果)

1.文書の真正の成立(偽造ではないこと)

 

(1)処分証書

 

 売買契約書契約解除の通知書などを処分証書といいます。
 売買契約書は売買がなされたことを示す書面です。売り買いという法律行為が書面によっておこなわれたことを表しています。また,消費貸借契約書はお金の貸し借りがあったということを示す処分証書です。

 

(2)真正の成立

 

 真正の成立とは,偽造されたものではないということです。本人が作った文書であるということを意味します。
 処分証書が偽物でなければ,その法律行為がなされたことが証明されます。売買契約書が偽造されたものでなければ,売買契約がおこなわれたことは証明されたことになります。

 

(3)本人の作成した書面であることの証明

 

 文書の真正の成立を証明する必要があります。
 直接に真正の成立を証明することは,本人が認めない限り困難です。そこで推定をすることになります。

 

①推定

 

 推定とは,相手側から反証がない限り,推測されたことを暫定的に事実として扱うことを意味します。
 借金の契約書(消費貸借契約書)があり,お金を貸した側が貸した金を返せと要求する場合。契約書は偽物ではなく,借りた人が作ったもので間違いがないということを,貸した人が推定という形で暫定的に証明する必要があります。

 

②二段の推定

 

 貸主が借主は消費貸借契約書の作成にかかわったことを証明しなければなりません。
 その手法として二段の推定と呼ばれる推定法を使います。推定に推定を重ねることになります。

 

 二段の推定の詳細は,次項,「文書の真正の成立の推定」をご覧ください。

 

2.文書の真正の成立の推定

 

 この推定のために使われるのが署名(サイン),押印(ハンコを押す)です。
以下に押印・署名があることによって,本人の作成した書面であることがどのように推定されるのかを見ていきます。

 

(1)押印がある場合の推定

 

 記名のうえ押印がある場合に,その記名のある人が作成した書面であると,どのように推定されるのかを見ていきましょう。
 記名とは署名以外の方法で氏名を表示することを言います。たとえば,氏名のゴム印を押すなどが考えられます。

 

①事実上の推定(裁判所が判例として認めている推定) 一段目の推定

 

 書面に押印がある場合に,問題になるのはその押印が本人の意思によってなされたものであるのかということです。

 

 この点については判例があります。
 その書面についてある印鑑が本人のものであれば,その押印は本人の意思によって押されたものであると推定されてしまいます。
(昭和39年5月12日最高裁判決:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53145

 

 そこに本人のものであるハンコがついてあれば,そのハンコは自分の意思でついたハンコだと推定されてしまいます。「いや自分がついてのではなく誰かが勝手についたものだ」とか言うのであれば,そういうあなたが自分で証明しなさいということになります。

 

 つまり,書面の押印の印鑑が本人のものであることが証明されれば,自分の意思でそこに押印したものであると推定されてしまいます。
 その証明は印鑑証明書によってするのが簡明です。推定の理屈はいわゆる三文判でも変わることはありませんが,押印されている印が本人のものであるという証明が難しくなります。

 

②法律上の推定(民事訴訟法228条4項に法定されている推定) 二段目の推定

 

 自分の意思でそこに押印したとして,次にその書面に書いてある内容について承知していたかが問題となります。
 たしかに自分の印をついたが,そのときには文面が白紙になっていたとか,自分が押印したときの文面と違うとかいう異論が出てくるかも知れません。

 

 そのことについては,民事訴訟法228条4項に規定があります。
 本人の意思に基づく押印がある場合には,その書面は偽造されたのではなくて,本人の意思に基づいて作成されたものであると推定されます。

 

③二段の推論から結論される推論

 

本人の印鑑が書面に押印されている場合には

その押印は本人の意思に基づき押されたものであり
そうであれば,その文面については本人が作成したものであり,他の者によって偽造されたものではない

と推定されます。

 

(2)署名(サイン)のみの推定

 

 押印の場合と署名の場合の推定も同じ筋道をたどります。

 署名というのは自分の氏名を自分で書くことです。

 

 本人の署名があった場合には,本人の意思に基づき署名がなされたものであると推定されます。誰かにむりやりに名前を書かされたわけではないとの推測を受けるわけです。

 書面に本人の意思に基づく署名があれば,その書面は偽造されたものではなく,本人が作成した書面であると推定されます。

 

3.結論

 

 押印でも署名でもその効力に変わりはありません。

 

 本人の印による押印であることの証明には印鑑登録制度あります。
 本人の署名であることの証明には印鑑のような登録制度がないため,筆跡鑑定のような面倒な手続きが必要になります。

 

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