父が死亡して,遺産はゼロ,生命保険金5000万円。相続関係はどうなる。(2)

1.特別受益

 

このことについての詳細は,前回の投稿をご覧ください。


そこにおいて,生命保険金が特別受益に該当してもしなくても,弟が父親の相続にあたって遺産分割で受け取るものはゼロであると言うことを説明しました。
前回投稿:「父が死亡して,遺産はゼロ,生命保険金5000万円。相続関係はどうなる。

 

民法903条2項では,特別受益にあたるものがあればそれを亡くなったときに現存する財産に加算して計算するように規定をしています。
しかし,計算の結果の相続分より特別利益として受けるものが多いとしても,それを返すようには要求をしていません
つまり,もらったものを返す必要はないのです。

 

2.遺留分

 

(1)遺留分とは(民法1028条)

兄弟姉妹を除いた法定相続人(配偶者・子ども等,両親等)は亡くなった人の財産の一定割合を受け取る権利があります。この権利を遺留分減殺請求権と呼んでいます。
遺留分を請求するかどうかは遺留分減殺請求権者にまかされています。必要であると考えれば遺留分減殺請求をおこないます。

 

今回の例では,兄・弟だけが法定相続人であるので,兄・弟それぞれ遺留分は四分の一となります。兄は遺留分四分の一は充分超えているので,弟についてだけ遺留分が問題となります。

 

(2)遺留分減殺請求の対象財産(民法1029条,1030条)

遺留分の対象となる財産は次の計算によって金額を決めます。

①相続開始時にあった財産に贈与した財産を加えます。ここでいう贈与は亡くなる前1年間にしたものに限られます
②①の額から債務を引きます。

 
(3)生命保険に関する遺留分と特別受益

 

①特別利益と遺留分の関係

ア 亡くなったときの一年以内の贈与ではない特別受益も遺留分の減殺の対象に含まれるという最高裁の判決があります。
(平成10年3月24日最高裁判決)

イ さらに,死亡保険金は特別の事情がある場合には特別受益に準じて持戻しの対象となるという最高裁の判決があります。
(平成16年10月29日最高裁決定)

ウ したがって,死亡保険金は特別受益に準じる場合は,遺留分減殺の対象になるという結論が予想されます。

 

②死亡保険金と遺留分

ところが①と矛盾するかのような裁判所の判決があります
死亡保険金は遺留分の対象にはならないとする最高裁の判決です。(民法1031条)
(平成14年11月5日最高裁判決)

 

③矛盾するようにも見える判決の見方

ア ①イの判決(平成16年10月29日最高裁決定)について

最高裁判所は特別の事情がある場合の生命保険金の特別受益性は認めてはいるが,遺留分減殺の対象となる特別受益だとまでは判断していないという見方もあります。
しかし一方,生命保険金について特別の事情がある場合には特別受益となり,遺留分分減殺の対象になるという見方もあります。

イ ②の判決(平成14年11月5日最高裁判決)について

生命保険金は遺留分減殺の対象にはならないとする意見もあります。
しかし一方,②の判決は受取人が第三者である場合についての判決であり,法定相続人の関係においての裁判例ではない。したがって,①の特別受益として持戻しの対象となる可能性が大きいという見方があります。
※(②の判決の受取人変更が第三者についてのものであるということは確認できませんでした)。

 

3.まとめ

 

生命保険金は特別の事情のもとでは,特別受益の対象となることもあります。
また,特別受益である生命保険金は遺留分減殺の対象となる可能性もあります。

うまくいけば,弟は遺留分として,5000万円の四分の一(遺留分割合)の1250万円を手に入れることができます

 

しかし,可能性があるということであり,つねにそうであるとまではいえません。最終的には裁判で決着をつけなければならない事態も予想されます。

 

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